講師 川村千鶴子さん(多文化教育研究所所長)
1999年11月定例会 |
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今回は、1999年11月にまち居住研究会が開催した「第2回情報交換会」から、
大久保地域の保育園や小学校の多文化教育について紹介します。
講師は、 川村千鶴子さん(多文化教育研究所所長)です。百人町生まれの川村さんは、 精力的に多文化教育の普及に取り組み、大久保地域と太平洋諸国を中心に丁寧な 取材調査を続けていらっしゃいます。川村さんの情熱的であたたかい
人柄に圧倒され、 研究会のメンバー一同お話に引き込まれてしまいました。
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●●妊娠・出産●●
日本では、妊娠し届け出をすると「母子健康手帳」をもらいます。
新宿区は、この母子手帳を英語、韓国語、中国語で出版し、出産費用の一部負担金制度もあります。だんだん出産が近づいてくると、親は子供にどんな名前をつけたらいいか考えはじめます。その時に生まれてきたら何語で育てるのか、どんな文化的環境がいいのだろうかということを自問自答していくわけです。文化的多様性をもった結婚の方が、親としての自覚が生まれて
くるように思えます。 |
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●●保育園●●
四谷や戸塚、大久保地区の保育園では色々な国の言葉が行き交っています。新宿区のすべての保育園や幼稚園では、かなり前から外国人の子どもがいましたし、今では2人に1人は外国系(注 *)の子どもといった保育園もあります。外国系といっても40カ国もの多様性があります。新宿区では既に1980年代に言葉や保健衛生の問題が話し合われていました。
もともと下駄の子とサンダルの子と革靴の子など、いろいろな子どもがいて当たりまえだった保育園に、たまたま外国系の子どもたちが少しずつ増えてきたという感じでした。 保母さんたちが韓国語、中国語、英語で保育の会話集を手作りで作成しました。1994年には厚生省の外郭団体が保育園ガイドブックをポルトガル語、スペイ語、 中国語で作しましたが、新宿区ではそれよりずっと早く自分達で会話集を作っているのです。
また、1994年と1995年に新宿区の全保育園に対して行った調査から、 これらの保育園
では連絡帳を交わすなかで、日本語の不自由なお母さんの言葉を保母さんが 直して
あげたり、いろいろな意味で助けあったり連携が生まれていることがわかり、感動しました。 子どもを通じて強い絆が生まれています。世界では文明の衝突や宗教の争い、 民族紛争 が焦眉の問題である中で、このまちでは多文化教育の概念が生きており、多文化共生社会が可能であることを感じます。
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●●小学校●●
大久保小学校は今年で創立120周年。戦前は1,500人もいた生徒が今では174人と、児童が減少しています。この中に外国系の子ども達が多数在籍しています。外国系の子どもが多いと、学校全体の学力低下を懸念する人もいますが、 実際には
問題はないそうです。日本語ができないことを引け目と感じさせない雰囲気があり、みんなすごく仲がよくて明るい。上級生が下級生の世話をよくみるのも特色のひとつです。
また、PTAにも外国人の父兄が積極的に参加し役員も多く、 給食の試食会では色々な国の食文化を紹介したり、学芸会・音楽会・展覧会では 母国語でスピーチをするなど、子どもたちが自分たちの母国語をプライドをもって 話せるような指導をしています。また言葉の問題に関しては、外国人保護者の協力で 韓国語と中国語のお知らせを作成しています。家庭訪問のときに言語で苦労することは あまりないということです。
大久保小学校で外国人のお母さんたちにインタビューをしたのですが、 大久保の印象は 大変すばらしい。まずまちが安全で便利。このまちほど親切なまちはない。学校がすばらしい。学校の先生がいいし、友だちもいい…。韓国の人に 「韓国人どうし仲が いいですか」と聞くと、そうじゃなくて、フィリピン等のいろいろな国の人たちと会えることがうれしい。大久保絶賛の声を聞きました。
大久保地区は外国人が多いので、学校でのイジメを心配される方もいますが、これは絶対に「ノー」、逆なんです。みんなが違っていることは当たりまえなんです。ここでは、多文化共生の新しい能力を育んでいる点で、日本の教育改革のモデルになり得ると感じています。 |
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注* 国籍は日本でも、文化的背景は外国という子どもたちが増えている。ここでは、外国籍の子どもだけではなく、それらの異なる文化的背景をもった子どもたちも含めて「外国系」という言い方をしている。
*この原稿は1999年11月のまち居住研究会・定例研究会をまとめたものです。 |