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”目から鱗(ウロコ)の”海外の賃貸事情(抜粋編)
 
     
日本  
[日本編]日本人でもわかりにくい日本の賃貸借契約??
 
世界各国の賃貸借事情を勉強する前に、わが研究会メンバーのひとり荻野政男さん(不動産会社役員)から、まず日本の事情についてお話を伺いましたので、簡単に紹介しましょう。
 
     
 

◎地域差の大きい「礼金」と「敷金」

「礼金」は、戦後住宅不足で家主の立場が強かった頃に、借りる人から家主に
対して礼金を支払うことが一般化して発生した戦後生まれの慣習だそうです。
東北から関東~中部・北陸にかけは「礼金」がありますが、関西では方式が異なります。
関西では最初に保証金として家賃10ヶ月分を支払い、例えば「敷引50%」の場合は、 家賃が10万円だと敷金100万円、敷引は50万円となり、東京でいえば、これが 礼金50万円、 敷金50万円に相当するそうです。日本の中でも時代や地域が変われば、賃貸借のシステムも 随分異なるわけですね。

「敷金」は、東京では家賃2~3ヶ月分が一般的です。もちろん家賃の不払いに対する 補償 という意味がありますが、最近ではリフォーム代としての必要性も高いようです。 というのは、 入居者が変わるたびに畳や壁紙を新調しないと新しい借り手が見つから ない ため、家賃の1~1.5ヶ月分もの費用がかかり、最低2ヶ月分は敷金が必要になるとのこと でした。単なる慣習ならば礼金は不要では? リフォーム代は当然家主の 必要経費では? …と思えますが、 現実には賃貸住宅の経営が、礼金・敷金を含めない と成立しないような 収支計画になっていると いう問題があるようです。また入居者に 部屋の改造を認めないから リフォームが必要になるのか、 新品でないと嫌だという 借りて 側の意識に問題があるのか、 住宅建材が工業製品ばかりになり、 昔の障子や 襖の 張り替えのようにローテク・ローコストで 対応できないことに問題があるのか…
など、 現在の日本人の意識や消費生活全体の 見直しにもつながるような議論に なりそうだ と思いました。

◎「保証人」仲裁役。更新料はおかしい!?

さて外国人にとって、最も問題になるのは「保証人」です。保証人は、契約上は
連帯保証人なので 債務を支払う義務がありますが、現実には、借りて側とトラブルが あった時の仲裁役あるいは連絡先 としての役目の方が大きいとか…。外国人にも、 日本人の保証人が必要とされるのは、保証人が 外国人だと、そもそも保証人にトラブル の原因や仲裁の必要性を理解してもらうのが大変という 事情があるとのことでした。

その他「更新料」というのがありますが、これは何故必要なのでしょうか?
これまで日本では 不動産業といば仲介のことで管理という考え方がなく、家主に対する サービスとして、やむを得ず 無報酬で管理しているというのが一般的な実状だそうです。
そこで現実には、更新料が不動産会社 にとってサービス管理に対する報酬的な意味を もつとか…。でも管理料ならば家主が不動産会社に 払うべきで、借り手が更新料という 名目で払わされるのは、やっぱりおかしい! 高齢者や外国人の 賃貸住宅への入居を 考えると、今後ますます管理業務というのが重要になってくるはずです。 管理が業務と して確立していないという話を聞いて、これは今後の大きな課題だと感じました。

日本の賃貸借システムには、慣習・慣例とか、代替え措置が多すぎて、 「外国人ではなく日本人 でもわかない!」そう思いませんか?

 
     


 
   
日本  
[アメリカ編]賃貸住宅の資産運用・管理がビジネスとして確立
 
お話をしてくれた人:海老沼修さん(建設会社勤務/日本)
            伊藤杏里さん(アメリカ留学歴2年/日本)
 
     
 

(解説)

サンフランシスコ郊外のアパート開発業務を担当して米国在住歴5年の海老沼さんから、 アメリカ西海岸の賃貸借事情を伺った。アメリカでは、アパートは オフィスに次ぐ投資対象。 管理会社が賃借人とエイジェント契約をし、家主に 代わって資産運用・管理を代行する。 管理会社の評価はいかに資産価値を高め
られるかで決まるので、プロパティ・マネジメント と呼ばれる管理業務の幅は広く、 また 投資家(家主)に対する業務責任の範囲も明確で、業務実績は投資家に 情報公開されているという。

契約は、賃借人と管理会社の間で行われることが多く、両者の立場はもちろん
対等で極めてビジネスライクな関係というのが、いかにもアメリカらしい。保証人は 不要だが、収入やクレジット歴による資格審査がある。契約期間は6~12ヶ月が 一般的であるということだった。契約期間途中での退居の場合は、賃借人が 残期間の家賃を支払う義務を負うこともあり、伊藤さんも留学中に残家賃の
支払いで多大な出費が必要だった体験を紹介してくれた。

     
 
 
   
日本  
韓国編]伝貰(チョンセ)で投資資金を集める韓国の大家さん

 
お話をしてくれた人:安相景先生(東洋大学助教授/韓国)
                  尹相球さん(会社役員/韓国)
                  留学生の皆さん

 
     
 

((解説)

韓国独特の制度「チョンセ」とは、借り手が入居時に一括払いで多額の入居金を 家主に預け、家主はその資金を投資にまわして収益を得るというシステム。家主は、 チョンセ金を次の投資用住宅資金に回したり、利息で収益を得るという。韓国には いわゆる 賃貸住宅は少なく、個人が自宅以外に資産として購入した分譲マンションが 借家代わりに流通 している。一般的なチョンセの額は、その時の住宅売買価格の なんと5~8割にも相当する、借り手は最初に家主に多額のチョンセ金を預ける代わり に家賃はなく保証人も不要。 退去時にはそのチョンセ金がそっくり(無利息)返還される。
実際には、家主は次の借り手か ら預かったチョンセ金で返済する場合が多いようで、 家主、不動産屋、退居する人、新しい借り手の四者が集まり金銭を授受するそうだ。 家賃不要のチョンセ制度は人気があり、ソウルでは 借家全体の7割を占める。なお、 月払い家賃の月貰(オルセ)もあるが、これは学生用など小規模な借家に多いということだ。

●フランス人の目からみた韓国のチョンセ制度●

 ~韓国の独特な制度「チョンセ」~

お話を伺って、まずチョンセ制度にびっくりした。そんな大金をどうやって準備するのだろうか。 けれども、説明を聞いてみると、それなりに理屈が通っている面もあることがわかった。 住宅を投資用に購入する大家は、借家人にもらった資金(チョンセ)を使って 別の住宅を買うこと ができる。一方、借家人は月払いと異なり、引っ越しで家を退去する 際、以前支払ったチョンセ金 は全て返還される。このような点で、チョンセ制度はお互い の 利益となる。

この制度はおそらく、次の借家人が容易に見つかる場合や、景気のいい時期だと うまくい くかもしれない。しかし、経済危機の今日、この制度の問題がいろいろと浮かび 上がってきて いるようだ。契約期間が終わって家を退居する時に次の借家人が 来なかったり、 チョンセ金が下がってきた場合,あるいは大家が破産した場合には、 チョンセを返還できなく なってしまう。 そうなったらどうなるのだろう。数十%まで戻る 賃借保険制度もあるとの お話だったが、 数十%ではなかなか厳しい。さらに、大金の チョンセを預ける大家が破産して は困るので、 家を借りる前に、家主の登録や貯金を 調べたり、あるいは戸建住宅の場合には 同居となる大家の家族構成を聞いたりする こともあるという。他人の銀行口座を調べることなど、 フランスや日本では、考えられない ことであるように思われる。

また、仮に景気がよくても、人気のある地域では、チョンセは周辺地域の価格に応じて 例えば 2倍になる可能性もある。このような場合、契約期間の2年が経っても住みつづけ ようとしている 借家人は、新たにチョンセを払えなければ、立ち退かざるを得ない。この 制度は、借家人にとっては厳しいと思った。

 ~チョンセを払えず月払いに"落ちる"~

チョンセは賃貸住宅全体のうち、ソウルでは約70%を占め、残る30%が月払いとの ことだ。 韓国では、借家人は月払いよりチョンセを好むという。なぜなら、月払いだと、 お金は戻ってこない。 また、月払い住宅の多くは、廃れた地域に立地し水準が低い (賃貸世帯の平均使用面積は13坪が、 月払いの世帯は7~9坪である)。経済危機 により、チョンセ金を払えなくなった世帯がそういう 地域に集住すればするほど、水準は ますます低くなるのではないだろうか。しかも、 低所得層世帯の住居安定のために 1980年代初期から公的な賃貸住宅が建てられてはいるが、 その数は相対的に少ない。
こういったことは、特定の地域がゲットー化してしまう最初のステップにならないだろうか、 危惧してしまう。


 ~一つの住宅に複数世帯、我慢できるの?~

また、住宅ストックの不足に起因するのか,あるいは伝統的建築がそうであるのか、 その原因は不明確であるが,韓国の賃貸世帯のうち、戸建住宅でもアパートでも 80%は2ー3世帯が 一つの住宅に同居しているということには驚いた。韓国の住宅形態 は、戸建住宅が47%を占めてい るが、一戸建て全体を借りるのが難しい世帯は、 1部屋を借り、大きい一戸建ての場合は10世帯が住 むこともあるという。フランス人の 私に とっては、同じ家族や親族世帯であればまだ考えられるが、全く見知らぬ方々と 同じ住宅に 住むのはちょっと困ると思った。また、複数の世帯が 一緒に住むと、 当然音の 問題などが あるはずだ。韓国人は、生活騒音に慣れたのだろうか、 それとももともとあまり気にしないのだろうか。韓国社会では、フランスとは違って、 人間関係が 随分親密だと うらやましく思う 一面もある。

韓国人のほとんどは、アパート・マンションの購入を目指しているという。韓国は寒い 国なので、一戸建てより暖かく、または防犯の面から考えればより安全なアパートの方が 人気ある。 それだけでなく、ケーズによって違うかもしれないが、一戸建ての多くは 大家と 同居し高密度なので、近代的なプライバシーを許すアパートの方がむしろ 望ましいと考えら れてきたのだろうか。


     
 
 
   
日本  
[台湾編]不動産屋よりも口コミ、法律よりも交渉力がものをいう

 
お話をしてくれた人:伊藤健さん(会社勤務・台北留学歴1年/日本)
 
     
 

解説)

台湾の持家率は85%。だから賃貸住宅は少なく、特に単身者の場合は間借りが 一般的だそうだ。外国人のうち企業駐在員と出稼ぎ労働者は、会社や雇用者が住宅を 用意するので、 自分で住宅を探すのは留学生と現地採用の会社員。しかし、高級な 賃貸住宅は別として家賃の安い物件は、不動産屋を介さず、口コミや街頭の掲示板で 貼り紙を見つけて、直接家主と交渉し契約することが多いという。

契約書は文房具屋で購入し、金額を書き込み家主と賃借人で署名・捺印する。
敷金1ヶ月、契約期間は半年以上が一般的。しかし、契約書を交わすと相手の権利が 明文化されてしまうので、口約束だけの方がよいと考える台湾人も多く、その場合は 家賃数カ月分を前払いする。また家主から数室借りて自己用以外を又貸しし管理人 も兼ねるという第二家主がいることもあるという。生活ルールというものは特になく、 法律がどうのこうのというよりは、家主と店子との力関係や地域の習慣で物事が決まる といってもよいくらいだそうである。

     
 
 
   
日本  
[ドイツ編]生活ルールの隅々まで規則できっちり決める
                   ドイツ人気質には脱帽!




 
お話をしてくれた人:藤井俊二先生(山梨学院大学教授)
             菊地直子さん(ドイツ在住歴12年半)
 
     
 

(解説)

ドイツでは、「住居賃貸借法」によって賃貸借契約が制度的に確立している。契約内容 は詳細かつ厳密に明文化されており、日本のように慣例・慣習に基づく不明瞭な部分は ない。 契約書では、転貸・ペット飼育・パラボラアンテナ設置には家主の承諾が必要と されており、 一方建物内部の壁紙の張替え、天井・壁等の塗装などは賃借人が行うこと に なっている。 さらに契約の際には「入居者心得」として、集合住宅において遵守すべき 住まい方のルール (例えば、カーペットや布団を叩いてもよい場所と日時の指定、 共用部分 の清掃当番や回数の 明記など)が詳細に決められている。違反者に対して は、警察が 呼ばれて対応する。借り手と 家主間のトラブルは裁判で解決することも多く、 まさに法と規則 により厳正に管理されている。 またドイツには、トルコ人をはじめとする
外国人 居住者も多い が、彼らによる生活騒音や食べ物の 匂いなどはドイツ人に とっては耐え難い らしく、 ドイツ人住民の転出により、 ベルリンのクロイツベルクのような 外国人集住地区が 生まれている。



韓国人(李 昶淑)の目からみたドイツの賃貸借事情●

 ~あまりにも細かい!住まい方のルール~

韓国人の私から見れば、ドイツにおける住まいの話で最も印象に残ったのは、
住まい方の ルールの厳しさである。特に音や臭い、美観に関する規制が厳しいよう にみえる。例えば カーペット叩きの時間帯まで文章で細かく決められていることには 驚いた。また、この厳しい ルールを皆きちんと守っていて、トラブルがあった場合には、 すぐ警察が呼ばれるというのも面白い。 韓国では、こういう問題は、大体共同生活 の人々の常識に頼ることはあっても、わざわざ文書で 明文化されたりはしない。
伝統社会から近代、及び現代社会に移行した歴史が浅い韓国では、 昔からの
共同社会の名残が残っているので、近所付き合いや人間関係には(形のない)道義と 徳が重視される。むろん、マンションで夜間に子供が部屋の中を走り回ったり、 床を叩いたり すると、警備室を通して文句を言われたりもするが、マンションに住む 人々が守るべき (明文化された)規制は殆どないと言ってよい。ドイツで、この様に 生活ルールが細かい 所まで決められているのは、長い都市化の歴史の中で積み重ね られてきた生活文化によるもの であると思われる。

 ~借家人と家主の力関係は平等~

ドイツでは賃借人と家主間のトラブル等がたびたび訴訟に持ち込まれるため、
年間120マルクの 会費を払うことによって弁護士保険に加入できる賃借人のための 組織として 「ドイチャー・ミーター・ブント(店子協会)」や、細かく裁判の判例が紹介されている 「ミーター・ツァイト」という雑誌が出版されている。また敷金の管理を、賃借人と家主が 共同名義でつくる特別口座(両者のサインがないと出し入れできない) で行うのも非常に印象的だ。 金銭のトラブルを防ぐ為には、合理的な制度ではないか と考えられると同時に、賃借人と家主の間に完全と言えるほどの平等関係が伺える。
これらのことから、賃貸住宅での暮しが一つの文化として確実に定着している様子が 伺える。しかしドイツでは、法や規則があまりに細かく決められているため、そのルール 以外に問題が起きた場合は、また新たな規則が必要になり、 規則は益々増えるの ではないかとも思われる。

 ~笑うに笑えない文化の差~

世界中で国際化が進められ、外国人と隣り合わせで暮らす機会が多くなりつつ
あるが、 それぞれ異なる文化的背景が原因となって、トラブルが起こる事が少なくない。 文化的な差異が やっていい事といけない事を区別する基準となることもあるらしい。 例えば、魚を焼くことが ドイツで問題とされるのは、ドイツ人が魚をあまり食べないからで あろう。日本人ならば、 お隣さんが魚の匂いを出しても、自分も魚を焼く事があるので 文句を言えないだろう。韓国人の キムチの臭いが、世界中の都市で問題となっている のも同じでことである。 (もちろん食文化の差もあるが、その文化への慣れや好き嫌いによる部分もある)。

また、自分の住む街を奇麗に見せたい気持ちは理解できるものの、ドイツの都市 では 特に建物の 外観に関する規制が厳しいのが印象的である。そして街によっては、 窓に花を 飾るのが義務づけられている所もあるという事実には驚かされる。街全体の 統一された 美的外観を守るために、共同体の構成員のやるべきことを法規、即ち 社会的な合意で 規定していることに、ただ感心するのみだ。しかし、何故パラボラ アンテナが問題になるの か理解できない。 ドイツの街並みでは、パラボラアンテナが 見苦しく見える様だが、 日本や韓国ではまったく 問題にならないのは何故なのか?

日本ではマンションのバルコニーに布団を干している光景をよく見かけるが、ドイツ人 の目には、 それがどのように映るのか知りたい気持ちになる。同じヨーロッパでもイタリア では、マンションのバルコニーで布団を干すのが普通であるように記憶しているが、これも やはり 文化の差と言うしかないようである。


 ~共存というのは何処に……~

最後に、 アパートに外国人が多くなり、騒音や食べ物の臭いがひどくなると、
ドイツ人が 引っ越してしまうという事実にも注目したい。アメリカ、特にニューヨークでも 白人居住地に黒人が移住して来て、周辺に黒人の数が多くなると、白人が引っ越し てしまうと聞いている。 ロサンゼルスでも、世界中からの様々な人種がそれぞれの地域 を分け合って居住しているらしい。今まで白人だけの社会であったヨーロッパも、今後の ますます活発化される国際交流によって、いずれは多様な人種による社会に変わら ざるを得ないと思われるが、ドイツの都市もニューヨークやロサンゼレスと同じ道を歩む 様になるのか、今後に注目したいと思う。



     
 

 
   
日本  
[香港編]仲介はしても管理はしない不動産会社の
                        おかげで大家さんは大変
 
お話をしてくれた人:メンリさん(香港在住/香港)
            ジャネットさん(滞日歴6年/香港)姉妹
 
     
 

国際結婚して東京で暮らすジャネットさんは、香港に分譲マンションを購入して
賃貸に出し、姉のメンリさんが管理を手伝っている。香港では、独身者の9割は親と 同居しているので、賃貸に住むのはまだ分譲を購入できない新婚世帯が多いという。
住宅は不動産会社か新聞広告で探す。一般に敷金2ヶ月、仲介手数料1ヶ月、
契約期間は2年間で、最初の1年間は解約できない。身分証明書は必要だが、
保証人や更新料は不要である。
物件の仲介をする不動産会社はあるが、管理会社が存在しないので、マンションの所有者(家主)自身が管理をする。何かトラブルが発生した時にも自分で解決しなくて はならない。ジャネットさんは、マンションの共用管からの水漏れ事故で自分の貸している 部屋が被害を受けたが、結局自分で修理費用を負担させられたそうだ(建物修繕等を 話し合うの管組合はある)。香港では、ゴミは毎日回収される。住宅がコンクリートなので 騒音の問題も少なく、また香港人はみな麻雀が大好きなので「騒音は お互い様」だと語っていた。

 
     


 
   
日本  
[フランス編]人権や賃貸借の法律的対応はあるが、
                       別の事情も垣間見える

 
お話をしてくれた人:寺尾仁先生(新潟大学助教授/日本)
          稲葉奈々子さん(フランス留学歴4年/日本)
 
     
 

(解説)

寺尾さんから、自らの経験と法律的な解説を交えてフランス賃貸住宅事情を
伺った。 フランスでも賃貸借契約締結時に保証人は概ね必要だが、これは経済的 な信用チェックのためであり、銀行に預金があることを示せばいいケースもあるという。
保証金(敷金)は借家法で 2カ月以内と決められており、礼金や更新料はない。 家主からの更新拒絶は可能だが条件が厳しく、 また70歳以上の高齢者の更新拒絶 はできない。賃借人による模様替え(改造工事を除く)は容認されており、一般の 賃貸住宅は基本的には自分の好みで内装する。一方、借家法の対象外と なる 「家具付住宅」があるが、これはやや条件の悪い物件を主に短期的に借りたい人向け に家具付で提供するもので、賃借人の立場は一般賃貸に比べて弱いという。

外国人入居差別は法律で禁止されているが、差別の立証は難しい。フランスの外国人 住宅を研究した稲葉さんによると、立ち退きをせまられるなど住宅難を抱える人の多くは 外国人で、北アフリカやマリ・セネガル出身者が多いという。

     
 

6国の賃貸借事情の比較をして

以上、日本と6か国の賃貸借事情を紹介しましたが、みなさんはどんな感想を
抱きましたか? これは個人的な感想ですが、欧米諸国は契約社会という概念が
確立しているのに対して、アジアの国々は、慣例・慣習や、主張した者勝ち的な
力関係があるように思えました。これまで、外国人が日本で住宅を借りるときに、
欧米出身者の場合は、慣例・慣習に基づく「礼金」「更新料」といった契約の仕組み
がトラブルのもとになるという話を、一方アジア出身者の場合は、契約書を交わした
にもかかわらず、友人との同居や又貸しが問題になるケースが多いという話を
不動産屋さんからよく聞きました。契約社会という意味では、日本は、ちょうど欧米と
アジア の中間に位置しているようです。とはいえ今回の事例のアジアの国々にも、
日本のような「礼金」「更新料」はありませんでした。この問題は、やはり考え直して
みる必要が ありそうです。

  さて、生活ルールに関してはどうでしょうか? 例えば音に対する感覚は、
日本以外のアジア諸国の方が寛容なようです(反対にドイツは日本よりも厳しい)。
香港では「麻雀の音もお互いさま」という話を聞いて、なるほど「うるさい!」と感じる
基準がお互い異なることがよくわかりました。こういう感覚的な問題は、なかなか
解決するのが難しそうですが、まずはお互いにどのように感じているのか理解し合う
ことが大切だと思いました。そこで、研究会の中での議論を紹介します。


  ●●礼金・更新料・保証人
            ……簡単にはなくせないけど何とかしたい●●


◎礼金 

   「礼金」は不要と言いたいが、礼金を含めて賃貸経営の事業収支がようやく
   成立するというのが現実ならば、礼金を前払い家賃として考えるか、礼金を
   24ヶ月に振り分けて家賃に上乗せするかすべきである。ただし、礼金を家賃に
   振り分けた場合には、契約期間中途解約が発生した場合の家主側のリスクに
   備えて、米国・香港式に、残家賃を補償する仕組みが必要だろう。

◎敷金

 家賃滞納の担保として必要なのは理解できる。外国にも保証金はある。しかし
 敷金が、退去時のリフォーム代や清掃費に充当されてしまい、全額返却されない
  のはおかしい。リフォーム代や清掃費は、当然家主が負担すべき費用である。
 一方、新築に近い状態までリフォームが必要というのは無駄が多く、ユーザー側の
 意識にも問題がある。

◎更新料
 

   「更新料」と称しているが、実は不動産会社への管理委託料的意味が強く、
   本来は家主が支払うべき経費。それでは事業採算が成立しないのであれば、
   家賃価格自体を見直すべきである。

◎保証人 

  家賃滞納の担保という意味ならば、保険制度や保証協会の利用、米国式に
  クレジット歴を調べる方が確実であり、不要ではないか。今後は高齢単身世帯の
  増加が予測されているので、そういう意味からも見直しが必要。外国人の場合も、
  家賃支払い能力・生活適応能力が十分にあれば不要である(現状では、生活面
  でのトラブル発生時への対応策として日本人の保証人が必要と考えられている)。

◎入居審査 

  何らかの基準は必要だろうが、非常に難しい。特に外国人の場合、日本語能力の
  有無が審査基準になると不当な入居差別につながることになる。そういう外国人で
  も入居できるよう(家主側も困らないように)方策を考えるのが、この研究会の
  役割だろう。

  研究会では、礼金・更新料は、必要経費ならば家賃の中に組み入れて処理
  すべきという意見が多かったが、現実には、礼金・更新料があっても、ユーザーは
  見た目の家賃が安い方を選択するという指摘があり、ユーザー側の意識改革が
  同時に進まないと、賃貸借契約のシステム改善は難しいと痛感した。



  ●●生活ルールにグローバル・スタンダードなんてあり得ない●●

◎生活ルールは地域ごとに異なって当たり前

  生活ルールは、各国の文化や価値観の中から生まれていることがわかった。
だから国によって異なるのは当然だが、考えてみれば、東京の中でも地域によって
違うはず。例えば純然たる住宅地と24時間都市新宿に隣接する大久保では、
ルールの内容や基準が異なって当たりまえ。また、木造のアパートか遮音性の
よい構造のマンションか、単身者ばかりか、ファミリーの多い集合住宅か…でも
違ってくる。どうやったらその地域にふさわしいルールが作れるのか、そこが
大切なのではないか。

◎とはいえ最低限のルールがあるはず

  お互いの生命財産を侵すようなことや、ゴミ・騒音など、集合住宅で共同生活
を営む以上、最低限守るべきルールはあると思う。その最低限(=最重要?)の
ルールとは何か、外国人の意見も聞きながら整理してみたらどうか。

◎「迷惑」って何だろう?

  日本人は「他人に迷惑を掛けないように‥‥」という考え方が強いが、何が
迷惑で何が迷惑ではないのか? どの段階から迷惑になるのか? 個人差が
大きい。極端に言えば、親しい隣人のピアノの音は音楽だけど、挨拶も交わさない
隣人のピアノの音は騒音だと感じる。「迷惑」って何だろう?

◎多様な人が行き交う都市だからこそ隣人を知る必要がある

  日本人はもちろん、外国人ならなおさら、引っ越したときに隣近所に挨拶するだけ
で、 お互いの印象が良くなり、その後の関係もうまくいきやすい。都市生活に匿名性
を求める人もいるが、今後は、単身や夫婦のみ世帯が増え、多種多様(国籍・民族・
文化・価値観・職業などなど)な人が暮らし、人の入れ替わりが激しい地域ほど、
隣人がどういう人か知ることは、犯罪防止という意味からもとても大切になってくる。
生活ルールを補うソフトの部分も併せて考えていきたい。