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”日本の賃貸借契約システム改善”に関する提案


●●報告書作成の目的●●

まち居住研究会では、1998年度に諸外国の賃貸借契約システムを日本との比較を行う

勉強会を行いました。その勉強会やメンバーの議論を通じて、"日本の賃貸借契約シス

テムの改善すべきところ"が何となく見えてきました。そこで、これまでの研究会の調査

研究成果も活用しながら、私たちで賃貸借契約システムの改善方針を描いてみよう、と

考えたのがこの報告書づくりのきっかけです。

まずメンバーで不動産会社役員でもある荻野政男さんが中心となって日本の実態や

課題をまとめ、研究会の中で議論しながら改善提案を考え、その内容や文献資料を

もとに「賃貸借システム改善提案作業担当」(荻野政男・塩路安紀子)が報告書 (2000年5月、まち居住研究会)としてまとめました。

ここでは、「外国人」という視点を通しながらも、日本人・外国人に関わらず家主側・ 賃

借人側が納得でき、グローバル・スタンダードとなり得るような合理的な賃貸借契約
システムとするための方針や提案を示すことを目指しました。特に、市民活動グループ

という立場を活かして、できるだけ現実の生活実感を伴った具体的な提案を盛り込もう

としたものです。今後、行政や業界団体が賃貸借契約システム全体の改善を図っていく

上での資料として、あるいは現実に外国人への賃貸借を実施したり検討している

不動産業者・家主の方々の参考資料として、大いに活用していただくことを願って

まとめています。

    ※日本の賃貸借契約システムは地域による違いがあるが、ここでは主に

       首都圏の事情をもとに改善提案を作成。

     ※2000年3月より新たに「定期借家権」が導入され、日本の賃貸借事情も

       今後大きな変化が予想されている。しかし、従来の「借家権」による賃貸

       借契約システムも存在し続けること、また「定期借家権」導入による影響は

       未知数であることから、ここでは従来の「借家権」に限定して課題の抽出や

       改善提案を行った。

●●報告書の概要●●

  報告書の『総論』の部分について、以下に概要を紹介します。



(1) 賃貸借契約システムの国際比較からみた日本の特徴

    日本の賃貸借契約システムを欧米3カ国(フランス、ドイツ、アメリカ合衆国)と

    比較してみると、入居時の礼金等の慣習的な仕組みや、入居後には家主から

    の解約や更新拒否が難しい点など、いくつかの特徴が浮かび上がってきた。


◎賃貸借の仕組みは慣習的に行われ現在に至っている内容が多く、地域差が大きい。

◎首都圏の仕組みについて欧米と比較すると、特徴的な内容は「保証人」が必ず必要

で あることや「礼金」「更新料」の存在。また賃貸借契約は、基本的には契約自由の

原則に基づき家主と賃借人の合意にまかされ、これらの仕組みや金額についての

法的規制は行われていない。

◎日本の賃貸借契約では、入居後は賃借人の居住継続の権利が守られている反面、

家主からの解約や更新拒否が難しく、家主が賃借人の選別に慎重にならざるを得ない

状況も生じている。



(2) 外国人賃借人をめぐる問題点

  日本で外国人が住宅を借りる場合の"賃貸借契約システム"に関連する問題点に

ついて、(1) の日本の特徴を踏まえながら整理した。賃貸借契約システムの慣習的な

仕組みや不合理な部分が、入居する外国人にとって問題になると同時に、家主や

不動産業者にとっても問題であることがわかった。

◎外国人に対する入居差別

民間賃貸住宅では「外国人」の入居を拒否している物件が少なくない(外国人だけ でなく、高齢者や小さい子どものいる世帯、障害者世帯なども資格制限を受けやすい)。

◎保証人を探すのが困難

外国人にとって「保証人(連帯保証人)」探しが困難。その結果として、トラブル時の 連絡先や仲介役としての機能を果たせない人が、単なる名義貸しで保証人になって しまうケースなどは、かえって家主側にとっても問題。

◎日本語力を含む入居審査の厳しさ

入居審査のため多様な書類が必要とされる。入居資格を「日本語を話せること」に 限定している場合もある(家主や不動産業者にとっては自分で外国語に対応すること は難しく、言葉のサポート体制もほとんどない)。

◎敷金と連帯保証人による債務保証の問題

債務の担保として、賃借人は家主に敷金(一般的に家賃の2カ月分くらい)を預け、 連帯保証人も必要。実際の訴訟は通常3カ月以上の家賃滞納があって初めて 成り立つことから、一般の敷金額だけでは家主はリスクを抱える。連帯保証人も、日本では法的手段に訴えるケースが少なく、主な役割はトラブル時の仲裁役や 連絡先となっているのが実情。

◎慣習的に行われ目的が不明確な「礼金」「更新料」

礼金や更新料は、慣習的に行われ目的が不明確で、賃貸管理に関わる業務も 含めた不動産業者への報酬とされる場合もある。近年の不動産仲介・管理業務 の変化・多様化にもかかわらず、その業務や報酬の仕組みが慣習的なままである ことが問題の根底にある。

◎契約期間のバリエーションのなさ

首都圏では2年以外の契約期間のバリエーションがほとんどない(日本では賃借人からの解約が比較的簡単・自由であり、家主にとって短期で退去されると 空室発生のリスクが高まるため、礼金が担保となっている面もある)。


(3) 賃貸借契約システムの改善提案の概要


  (1) (2) の整理を踏まえ、賃借人側・家主側の双方が納得でき、グローバル

スタンダードとなり得るような賃貸借契約システムの改善提案を検討した。その際の

視点は、大きくは、・保証人・敷金・礼金・更新料等の目的を明確化する、・慣習の

まま固定化するのではなくシステムに柔軟性を持たせる、・契約期間や債務保証の

方法などの選択肢を拡大する、の3点である。


◎保証人の機能を再整理し、各機能ごとに代替手段を認めるなど柔軟に対応 保証人による「保証」の目的は、実際には「債務保証」「人物保証」「連絡先・ 仲裁役」等に分類され、保証人が見つからない場合には、それぞれの目的に 応じた代替手段を用意し認める。

       例/「人物保証」:家賃完済証明やクレジット歴、「連絡先・仲裁役」:
          債務保証を伴わない個人・ 学校・所属機関も可能とする

◎敷金の増額や共済・保険等による現実的な債務保証の仕組みをつくり、その採用を認める

       例/連帯保証人の負担を軽減する共済・保険等の仕組みを採用、
          連帯保証人がいなくても敷金額を増やしたり共済・保険等で
          代替可能とする

◎入居審査基準について一部代替手段を認める

       例/収入証明:家賃完済証明、クレジット歴、金銭的保証(敷金・共済等)
          の増額

◎礼金・更新料をなくす仕組みをめざし、当面は礼金・更新料を分割して支払う方式を選択可能とする

   礼金・更新料は国際的に見てもほとんど例のない不明瞭な仕組みであり、
   契約期間の固定化や管理業のあいまいさなどにも影響を及ぼしていることから、
   礼金・更新料はなくし 家主と賃借人の双方が納得できるシステムづくりを目指す。

◎途中退去のペナルティを含めた仕組みをつくり、契約期間のバリエーションを増やす

   2年以外(例えば1年)の契約も認め、期間に合わせて礼金等を含めたシステムを
   つくる。家主にとっての途中退去のリスクを考慮し、途中退去の場合のペナルティも
   含めた仕組みを検討する。

◎不動産仲介・管理業務とその費用負担のあり方を明確化する

   不動産業、特に不動産管理業務の内容を明確化し、家主と不動産業者の双方
   が納得の上で必要に応じて家主から管理会社へ委託する方式とする必要がある。

(4) 外国人賃借人をめぐる居住の総合的な支援に向けて

外国人の民間賃貸住宅での受け入れを推進していくためには、「賃貸借契約システム」
の改善とともに、外国人賃借人や家主、不動産業者に対して、国や地域行政、不動産業界団体等が連携し、外国人賃借人をめぐる居住を総合的に支援していくことが 必要である。そのために、市民活動グループ「まち居住研究会」の立場から、これらの 課題に取り組むための提案・要望をまとめた。

1) 賃貸借全般に関わる環境整備

◎居住差別の禁止(国、地域行政)

   国籍、年齢、障害等による入居差別の禁止を法的に位置づける

◎賃貸借契約システム改善の推進(国、地域行政、業界団体、不動産業者)

   行政や不動産業界団体による不動産業者の啓発・指導、および貸家経営業界

   団体や個々の不動産業者による家主への情報提供を推進する

◎不動産業の整備(国、業界団体)

   不動産管理業務の法的な位置づけや規制・誘導を行い、家主や賃借人への

   情報提供等を推進する


2) 外国人居住をめぐる総合的な支援

◎外国人の居住に関する総合的な支援体制づくり(地域行政、市民団体)

   地域行政と市民団体等の連携体制により、外国人の居住に関するきめ細かい
   対応を行う
 
●●報告書(全文)PDF
     「日本の住宅賃貸借契約システムの改善に関する提案」●●


1. 本報告書作成の背景と趣旨.
(1)背景
(2)本報告書作成の趣旨
(3)構成
2. 賃貸借契約システムの改善提案
2-1 総論
(1)賃貸借契約の国際比較からみた日本の特徴
(2)外国人賃借人をめぐる問題点
(3)賃貸借契約システムの改善提案の概要
(4)外国人賃借人をめぐる居住の総合的な支援に向けて
2-2 各論(1~3)
(1)敷金
(2)礼金
(3)更新料
2-2 各論(4~6)
(4)保証人
(5)契約期間
(6)入居資格・審査
【補足】定期借家権について
  資料:賃貸借条件の国際比較